特殊詐欺事件の「受け子」として、高校生などの少年たちが摘発されるケースが後を絶たないなか、神奈川県警は同県内の高校と協力して啓発DVD「狙われる少年~特殊詐欺に加担しないために~」を制作した。再現ドラマの役者や編集を高校生が行っているのが特徴で、同年代に親近感を持ってもらうことが狙いだ。
「結構稼げるバイトがあるんだけど、お前やってみない?」。DVDに収録されている約20分の再現ドラマ「Fの代償」では、こうした友人同士の何気ない会話から、特殊詐欺の加担者として巻き込まれる恐ろしさが、等身大の高校生の演技でリアルに描かれている。
■8カ月かけて
制作したのは同県伊勢原市の私立向上高校放送部と、川崎市の県立麻生高校メディア研究部の生徒たち。主に向上高校の生徒がドラマの役者を担当し、麻生高校の生徒らがカメラや編集を担当した。準備から編集までの制作期間は、昨年9月から今年4月の約8カ月間。撮影は生徒が冬休みの期間を中心に行われたという。
動画は約40分で、(1)特殊詐欺の現状を説明(2)再現ドラマ「Fの代償」(3)加担を防止する方法の解説-の3部構成。今月15日には両校の生徒が県警本部を訪れ、報道陣を交えた制作発表会が行われた。
再現ドラマの主人公は、ごく普通の男子高校生。冬休みを控えたある日、彼は友人から高額なバイトがあるから、やってみないかと誘われる。最初は警戒する主人公だったが、「お前の先輩もやっている」などと聞かされて安心し、引き受けてしまう。
しかし、それが抜け出すことができない泥沼への第一歩だった。物語の中盤で、主人公は自分がやっていることが詐欺だと気付くが、別の受け子たちから脅されるなどして、周囲に相談することができない。そのまま続けるうちに、「だまされる方が悪いんだ」と徐々に罪の意識が薄れ、自ら進んで受け子の仕事に手を染めていき、最後は警察に逮捕されることになる。
ドラマの脚本は実際にあった事件をもとに、県警が手掛けた。県警少年育成課によると、平成30年に県内で特殊詐欺に加担して摘発された未成年者は前年から15人増の60人と、深刻な状況となっている。同課の担当者は「犯行に加わる動機はさまざまだが、多くはバイト感覚でやり始めることが多い」と話す。
■良い出来栄え
受け子役の一人を演じた向上高校放送部長で、3年の本田愛理さん(18)はドラマの脚本を見て「簡単には抜けられない環境づくりが巧妙だと感じた」という。その上で、「(特殊詐欺が)決して自分に関係のないことではなく、身近にあるということを感じてもらうためにも、再現ドラマを現役の高校生がやった意味があると思う」と、意義を語った。
また、麻生高校メディア研究部長で3年の森田ことわさん(17)は「30分を超える映像をつくるのは初めてで戸惑ったが、良いものができたと思う」と出来栄えについて述べ、「私たちと同じ年代の高校生が関わっている本当に悪質な犯罪だと分かった。制作に関われて本当に良かった」と話した。
再現ドラマの終了後、DVDでは「甘い誘い文句には注意して、断る勇気を持つ」▽「一人で悩まず、家族や警察に相談する」▽「被害者の気持ちを考える」-の3つを守ることの重要性を訴えている。県警は今後、県内全ての中学と高校のほか、各都道府県警にもDVDの配布を予定している。インターネット配信も検討しており、負の連鎖の歯止めに役立てたい考えだ。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース